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小説memoサイト。拙いですが細々と書き記しております。 最近は『風光る』沖セイにはまっております。
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恋をする日 1

明治時代パラレルの沖田先生×セイちゃん。
名称とか地名とか時代考証とか頑張ったんですけど、考えるの苦手で間違っていたらごめんなさい。






ぽつり、ぽつりと雨が降り出した。
濡れて色濃くなる地面に、足取りがさらに重くなる。
昨夜泣き明かしたせいで瞼は重いし、寝不足で力も入らない。
先を行く兄、祐馬は家を出てから一度も振り返らない。
「あ、兄上」
たまらず声をかけたところで、祐馬が立ち止まった。
「セイ、着いたぞ」
試衛館、と看板を立てられた門と石造りの壁の向こうから、セイも聴き覚えのある竹刀を打ち合う音と気合の怒号が漏れていた。
「活気があるな」
祐馬の呟きにセイも力強く頷いた。
セイも幼い頃から兄と共に剣術を習っていて、同い年の門下には例え相手が男であっても負けない程の腕をもっている。
道場の張り詰めた空気が大好きで、門下たちからはよくお転婆娘とからかわれていた。そんなんじゃ嫁の貰い手がないぞ、なんて。
そんな自分がよもやこんな事になるとは。
「御免ください!」
悠馬がよく通る声をあげると、間を置いて「はい!」と返事が聞こえた。
近づいてくる足音に胃がキリリと痛む。
いよいよ覚悟を決めねば。
自分にひどく甘い兄が、一晩泣きついても聞き入れてはくれなかった。
他に道はないんだ。
そう自分に言い聞かせた。
しかし腹の底で納得の行かないセイは、これが出稽古であったならどれ程良かっただろうと考えてしまう。
「お待たせしました」
おかみらしい女が、膝を折って二人を出迎えた。
祐馬は一礼して口を開く。
「お初にお目にかかります。私は富永祐馬。これが妹のセイです。本日よりお世話になります」
「はい。事情は主人から伺っております。間もなく稽古も終わりますから、お上りになってお待ちくださいな」
早口に言って、どうぞ、と促すおかみに、兄と妹はわたわたと履物を解いた。
そこへドカドカと大きな物音がして、大きな顔をした強面の男が現れた。目は細く釣り上がり、口は異様に大きい。
思わずセイは悲鳴をあげる。
「鬼!?」
顔を青くした祐馬と裏腹に、鬼は困り顔で首に手を当てた。
「驚かせてすまん。なぁ、ツネ、そんなに私の顔は強いのだろうか」
ツネと呼ばれた女が答える前に、若い男の笑い声が届いた。
「あはははは!先生が鬼ですって。安心なさい娘さん、近藤先生ほど優しい鬼はいませんから」
腹部に両手を当てて笑いを堪えながら、胴着姿の青年はにこにことセイを出迎えた。
先ほどまであの気合いの中で稽古をしていたらしく、かなり汗臭い。
「初めまして。ここで塾頭を務めさせて頂いております。沖田総司と申します。」
にこにこと優しそうな笑顔の青年が現れた。
セイはまじまじと平べったい青年の顔を見上げる。
この人が。
私の夫になる?
「こら、総司。こんなとこで挨拶をさせるな。いや、すみませんな富永殿。おセイさんもどうぞ」
「沖田様」
セイは、意を決して総司を見つめた。
三和土に膝を折り、指をつく。
「娘さん、着物が汚れてしまいますよ」
驚いた総司が寄ってくるより早く頭を下げる。
「無礼とは存じますが、お願いがございます」
いきなり土下座をされた総司はもとより、近藤とツネも目を丸くした。
兄の祐馬だけが冷や汗を垂らし続ける。
「セイ、なにを」
「私と、試合ってくださいませ」
「貴女と?なぜ?」
総司はきょとんと首をかしげる。
それより顔をあげてください、と総司も三和土に降りた。
体勢はそのままに顔だけをあげたセイは恐れながら申し上げます、と口を開いた。
「幼き頃より嫁しては夫に従えと教わってまいりました。なれど、若輩者ではありますが私も武道に身を置く者。許されるものならば心からお慕いする方に生涯を捧げたいと思います」
なるほど、と総司は破顔した。
「つまり私の力量を試したいと」
祐馬は慌ててセイの隣で同じように膝をついて頭を下げた。
「大変申し訳ございません。私の教育不足にございます。どうぞ、女子のつまらぬ戯言と思いお聞き流しください」
「兄上!」
自分の決死の思いを、なぜ兄は頑なに拒むのか。
セイがなおも懇願しようとするが、総司は「いいですよ」笑顔を崩さずに答えた。
「生涯を捧げる人を見定めたい気持ちは男だとか女だとか関係ないと思いますし、私自身もとても共感出来ますから」
「それじゃ」
腰を上げたセイに、総司は真顔で返した。
「ただし女であろうと手加減はしませんよ」
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こまみそ。

二次創作ブログ。


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